さて今回お届けするのは、
天竺浪人『PARADISE LOST』 MEGASTORE COMICS コアマガジン ISBN978-4-86252-472-0 2008年11月25日発売
なのですが、
掲載誌『コミックメガGOLD』(コアマガジン刊)がお亡くなりになり3話で終わったためテーマ的には消化不良ながら、いちおうお話的にはオチているというレベルな完成度の作品と、掲載誌『フラミンゴR』(三和出版刊)がお亡くなりになり5話まででまったく未完のままになってしまった作品と短編1編の構成という、かなり欲求不満がたまる作品完結度なうえ、アイドルフェチ作家で有名な著者の脳内妄想的連作+監禁飼育された少女のトラウマを描いた痛くて黒い社会問題作+ひねくれ青春謳歌な短編という、極一般的なエロ漫画ユーザーな方にはとてもお勧めしにくい抱き合わせとなっていて、もともとアブノで高次元フェチでダークでシニックな社会風刺派の作家様でもあり、苦手だなと思った方は正直、見ない方が身のためかもです。
また、天竺浪人はエロ作家と言ういぜんに思いっきり漫画家気質な芸風なため、コマ単位での猥褻さは素晴らしいものがある反面、抜きツールとしてのエロ技法スキル自体はそれほど高い部類ではなく、サクサク抜ける部類のエロ本的な作品を求める方へはあまりお薦めできませんし、作品の性質上、今回は前作より総合的なエロ度は下回っており、元来私自身も抜くことは抜くけど、読む頻度の方が圧倒的に高い作家様で、まあ漫画好きの方以外には、はっきり言って強くはお薦めしませんし。私が取り上げるくらいだから当然と言えば当然なのですが、ともあれ
上述の内容で問題ない方のみ続きも読んでみてくださいまし。
それ以外の方には目の毒なので読まない方がよろしいかと。
カバー下には特に何もありませんよ。
消し:透過度10~30%の中細~中太網線消しで、もともと小ゴマが多いのでけっこうクリティカルに消えてる部分が大目。
ヒロイン:少女とかねーちゃんとかオバチャンとか。
お相手:雑多
乳:貧乳&並乳。天竺浪人は稀代の尻フェチでもあるので乳見せナシも多々。
陰毛:高校生の1名除けば無毛および剃毛済
性器形状:男女とも適度にリアル。
挿入描写:水準程度のものはあるけど連続性と大胆さにはやや欠ける。口の方がエロイかもな芸風。
射精形態:多種多様。そのシチュごとにテーマに合ったモノが選択される作風。
カラミの手法:萌えエロ手法とぶつかり愛で7:3くらいだけど、エロースよりフェチが優先するタイプ。
萌フェチ:コスプレイ・ボンテージ
軽フェチ:フェラチオ・バキュームフェラ
濃フェチ:疑似アイドル・監禁飼育
高次元フェチ:アナル・二穴・浣腸・二本挿し・男性へのアナル姦・精飲・ぶっかけ・露出・犬・トゲ付きコンドーム・ファイナルソード・姉弟・女装・輪姦・オージー・トラウマ・スタンガン・調教
性行為の属性:婦警調教・アイドル調教・歪んだ愛の餌食となった少女の連鎖的不幸・青春謳歌
乙女の符号:無し
ハードコア度:★3の中
ぶつかり愛:★3の中
想いのエロース:★5
エロ作画力:★4の中
エロ作画技法:★2の上
エロのコマ展開力:★2の上
総合エロ度:★3の中
作画力:★5
キャラデの魅力:★5
心情描写力:★5
漫画展開力:★5
漫画のコマ展開力:★5
総合漫画力:★5
属性:脳内妄想フェチ願望・リアルトラウマ物語・オチャメ
作品評価:96点(★5の上)
宝物度:宇宙
24冊目の成コミ(通算も24冊目)
『ハメドリ王子』(18頁)
27歳の婦人警官が息抜きでお持ち帰りされてみた、そのお相手の青年がよりにもよって高校生なハメ撮りマニアだったというお話で、冒頭11頁に二人の1年間にわたる主従関係を凝縮して詰めこみ、残り7頁で超アブノな記念日を演出するのですが、18頁漫画としての構成は抜群なものの、どう考えたって単行本1冊程度にした方がはるかに美味しいはずの調教劇を短編に仕立ててしまったということ自体が罪でしょう。カット単位でしか語られない超アブノ的調教の日々こそをひとつひとつのドラマとして積み重ねて描いてくれていれば、たぶん100点満点超したのになと思わずにはいられませんでした。
『ハメドリ王子#2~#3』(44頁)
1話主演のハメドリ王子こと須堂涼一が、香港のハメ撮り大王よろしく、とっておきのハメ撮り愛奴を紹介するお話で、そのお相手は彼の同級生である、現役女子校生アイドルな藤浦麻綾・17歳。著者らしいファッションセンスのボンデージを効かせた衣装で、徹底的にアナルを嬲られる国民的アイドルの堕ち様がすこぶるステキなんだけど、時代が時代だし媒体も媒体なので唯一のスカシーンは昔の三和やワニのようドハデさの欠片もなく、わずか1センチという為体なのが涙。さらに彼女とクリソツな弟に女装させしゃぶりたおさせ精淫させ、トゲ付きコンドームで挿入させたところで狂ったアイドルの実態を魅せつけ3話に引き継がれるのですが、さすがに無理矢理最終回なので天竺浪人にしては突き抜けきれておらず、無理にまとめるよりは濃いフェチ成分だけ垂れ流しまくっておいて、復活の日を待った方が好かったんじゃないかなと思います。が、ともあれ、弟の姉への憧憬を吐き出すようなリビドーが炸裂しまくり、#2でのイボ付きコンドームのアイデアを活かし、ひとつの変態アイドル姉弟の想いと肉体が奏でるドラマを一応完結させるところまでは持ってきました。まあ、休刊による無理矢理エンドなため致し方ないとはいえ、結果論だけで言えば、『アイドルなんて皆生まれついての露出狂』というテーマを完璧に演出しきるところまでは到達せず、また、スカにしてもシルエットレベルで薔薇含みの3連結にしても♂×♂シーンはゆるくしか描写されず、作家のもつアイデンティティーを100%活かしたとはとても言えない、時代の求める平均値なニーズのみに収束しようとする大手出版社の姿勢ばかりが浮き彫りになってしまっていて、致し方ないこととはいえ、表現の自由が超低空飛行なアダルト漫画界の現状に、寂しさもちょっぴり。
個人的な意見を言わせてもらうなら、成年マークに身を包むことによって、あらゆる表現形態の自由化を目指したはずの成コミの方向性が、あまりにもひとつのベクトルばかりに傾いてゆくのは、とてもつまらないし、紹介したい作品集が昔のものばかりなんてことになりかねない現状には、ちょっと(かなり)不満です。
『岡部さんのこと』(20頁)
万引き女生徒とコンピにバイトな同級生男子生徒のひねくれさわやか青春謳歌な物語。こういうのも時折り描かれますが相変わらず超ステキでした。
ほか、
イラスト入り作品解説のよーなもの2頁
描き下ろし4頁の穴埋め漫画『アナウメ』
後描き漫画『天竺浪人の禿筆三昧』4頁
エセエロコラム『エロ和尚の淫テリジェンス人生相談』2頁
後書き1頁
そんなワケで、一応1編単位ではオチてるもののテーマとしてなら未消化なままの『ハメドリ王子』と、まったくもって「早く続きを描きやがれ」な『CLAY-DOLL』の抱き合わせっていうことで、読後は思いっきり続きが読めないモヤモヤが恨めしかったですが、まあ、いずれも掲載誌休刊では著者の責任は微弱ですし、『CLAY-DOLL』は圧倒されるほど素晴らしかったので、未完による減点は2点のみ。
さて、肝心要のメインディッシュのご紹介ですが、ネタバレも多く含みますので以下に収納。
どうしてもギリギリのところで購入を迷ってる方のみ覗いてみてくださいましね。
『CLAY-DOLL第1話~第5話』(カラー4頁含む116頁)
車椅子の上に手足を拘束されアイマスクと猿轡を噛まされた全裸の少女がいる
「メヲサマシテ オヒメサマ」いざなう青年がいる
はたして少女はそれを否定する。
自分がゆりかごの上の汚いドロ人形であると認識している。
怖がることはないのだ、夢なのだからと自らに言い聞かせる少女
そして悪夢から現実へと引き戻された少女に用意されていたのは、なお終わらない悪夢でした。
「ワタシガキタナイから キタナイカラ カクサレタノ…」
というような4頁カラーの夢中モノローグで物語ははじまります。
そして
少女は現実世界でもやはり同じように車椅子に縛りつけられています。
4名の少年たちが現れ少女の枷を外します。
自由になった少女は自ら跪き奉仕の言葉を口にします。
かれらは王子様ではなかったのです。
シアワセは王子様が運んでくるものだと思っていた少女のココロは、無理強いされた「シアワセデス」を口にして無理矢理笑顔をつくるたびに少しずつ少しずつ腐ってゆくのでした。
3つの穴ぼこでひたむきに奉仕しながら少女は見えるはずのない自分だけの王子様に向かって謝罪の言葉を口ずさむのでした。無論、心の中で。
これは少女にとって二度目の監禁。
果たしてプロローグに当たる第1話が終わり、ここで話は少し遡ります。
カウンセラーを制止を押しきり娘を復学させようとする母という図から本編がはじまります。
誘拐事件の取材に来ていたTVクルーが゛男の部屋から錯乱して飛び出してきた少女を撮影してしまい、生放送で画面処理が間に合わず素顔が丸写しになってしまった全裸の少女がいました。
そして少女は、自身が汚物であることを悟られないように、出来うる限り自然に振る舞おうとします。
でも現実は残酷です。
男性教師と二人きりになると、突如として少女のトラウマが膨れあがります。
少女にはまだ判らないのです。普通の人と狂った人の見分け方が。
繰り返し繰り返し夢の中で少女は男に犯されます。
声にならない叫びで少女はいつも目を覚まします。
学校の図書室の本を文字通り端から読み尽くし市立図書館に通い詰め、小五になって小説を書きはじめた少女のさいしょの物語は
革命が起こり幽閉され処刑を待つ身のお姫様が地下世界の住人に戦乱を治めるべく頼まれて幻想世界へ冒険の旅に出る、そんなお話。
その希有なる才能が少女の未来を底なしの闇に陥れてしまうきっかけになってしまうという皮肉。
体育の時間が嫌い。
どう足掻いても自分のカラダだけが違っていることを少女は認識してしまうからです。
被害妄想な自意識過剰で気のせいなのはわかっていても、視線が気になるのです。
まばたきひとつの境目で昏い闇はつながっていて、汚らわしい行為は断続的に少女の日常を蝕みつづけます。
だからどうしようもなく澄みわたったこの青空のしたで少女はいつも男と同じ檻に繋がれて生きているのです。
だからふたたび捕食者が現れても、運悪くモノの扱いを知り尽くしている少女は、トラウマが慢性化してココロに染みついた腐った果実を吐き出しながらも、予め決められた約束事のようにそれを受け容れ、そして自らつなぎとめておいた遠くて近い隣の闇に我が身を贄として捧げるのでした。
そして物語は動きます。
徹頭徹尾、少女を描写しつづけた物語にはじめて転として投入されたギミックとしての王子様という符号。
はたして現れた王子様の思わぬ告白にとまどう少女。
ランドセル少年な王子様は、半年経ってもいっかな男子たちに馴染もうとしない少女に歓迎パーティーを開いてくれます。
そして少女にとって、人生2度目の監禁飼育生活の幕が開けるのでした。
いまさら取り返しのつかないもう一つの選択肢。
狂気な愛を突きつけられ死罪の宣告がなされ、物語はやっととっかかり部分に辿り着いたところで、まったくもって未完のまま葬り去られます。
たぶんそんなカンジの物語です。
少女側の心理方面から一方的にご紹介しましたが、物語の登場人物は無論少女ひとりではありません。
娘が闇にとりこまれる要因すらつくってしまった母の懺悔とか、
少女の身を案じて救いの手を差し延べようとする男性教師とか、
加害者である教師とか、
歪んだ愛をまとってしまった少年とか、
その少年に猿として飼われる少年たちとか、
それぞれの想いが少女という名の汚物を中心に紡がれてゆくのですが、この物語の終焉にいったい何が待ち受けているのかは、私には皆目検討すらつかないほど、物語はまだまだ序盤です。
ともかくも、『CLAY-DOLL』だけは、こうして世間に提示したいじょう、何が何でも責任もって続編を描いてくれると信じてます。
片手間にコツコツできる類の作業じゃないと理解したうえで敢えて、無理を承知で言わせていただきますが、1日1頁ずつ描きやがれです。
いつの日か単行本2巻でも3巻で4巻でもかまいませんから、納得のゆく結末まで描ききってください。
せめて私のチンチンが勃たなくなるまえに願いしますよ。
その節はぜひカラー20頁くらいで綾ちゃんの小説を劇中劇化してくださいまし。
もうひとつの選択肢が導く凄い何かが作品にどう反映されてゆくのか楽しみでなりません。
母や財前先生やらの、その後の活躍も楽しみにしております。
そしてなによりも最悪にして最良の幕引きに感動の拍手を贈れる日を夢見て。
フラミンゴRの復活こそも願いたいのですが、そのまえに、
もの凄いレベルの作家性を有しながら、その奇蹟力を封印され、在り来たりの漫画を描くことを押しつけられた、数多の鬼才たちが、とことん本気ジルシの全身全霊で漫画を描ける媒体こそを募集。モザイク処理された後のニュースでのそれは、まるで少女自体が汚物であるかのごとき儚さで、切々と心を締め付けてステキな痛みを与えてくれました。
母親の断固たる意志をシートベルトに例えるシーンも大好き。
犯罪被害者を食い物にするネット住人の狂気とか不運につけ込んで貪り喰らおうとする輩とか男の部屋から回収された証拠映像が幼女嗜好な警察官によって流出するという罠とかに込められたシニカルが大好きです。
自己保身のため母が持たせた防具すら使えるはずのない少女の、痛みに敏感な他者への思いやりさえすでに身につけたオトナ力にウルウルしちゃいました。
そんなワケで、ある意味師走の翁のシャイ娘。いじょうに疑似タレフェチマミレなヤツとか、現代社会問題に対する真剣勝負な鬱系人間ドラマとの組み合わせなうえ未完で、あまつさえエロより漫画の作家様ですが、ここまで読んでいただいて、それでもいーよという方はぜひ。
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theme : 成年コミック・マンガ
genre : アダルト